産業革命について9回目の記事になります。
今回は産業革命によって確立した「資本主義社会」について解説します。
資本主義とは何か?
わかっているようで、いざ説明しろとなるとよくわからないですね。
ジュウゴもこの記事を書こうと思ってうまくいかなくて、勉強しなおしました。
まだ勉強途中なので、いたらない点があれば教えてください。
[この連載の記事一覧]
資本主義とは?産業革命との関係は?
まず資本主義の意味と、産業革命との関係、そして資本主義が生まれる背景について解説します。
資本主義の意味(定義)
- 土地や機械などの生産手段を私有している人が
- 生産手段をもたない労働者を雇って
- 賃金で働かせ
- 商品をつくらせて市場に売って
- さらにお金(資本)を儲けようとする
以上の5つをもつ経済システムを指して資本主義といいます。
「主義」という言葉がありますが、何かの主張ではなくて、経済のシステムのことなんです。まぎらわしいですね。
ちなみに英語だと「capitalism」といいます。
この資本主義が浸透した経済のことを「資本主義経済」、資本主義が浸透した社会のことを「資本主義社会」と呼びます。
現在の日本をはじめ、世界中のほとんどが資本主義経済、資本主義社会です。
また、土地や機械などの生産手段を私有している人を「資本家」と呼びます。
会社の社長や、土地所有者や、ビルのオーナーや、金利生活者などのことですね。つまり自分で金を稼ぐ方法をもっている人たちです。
それ以外の、お給料をもらって働いている人が「労働者」に当たるわけです。
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産業革命との関係
「土地や機械などの生産手段を私有している人が」
「生産手段をもたない労働者を雇って」
「賃金で働かせ」
「商品をつくらせて市場に売って」
「さらにお金(資本)を儲けようとする」。
これ、1回目の記事で見たように、まんま産業革命の本質そのものですね。
だから産業革命によって資本主義が確立したといえるんです。
14世紀以降、ヨーロッパでも資本主義という経済システムはところどころにありました。フランドル地方とか、イタリアの都市とか、アムステルダムとかに。
でも、ポツポツと点在していただけだったんです。
それが18世紀後半以降、産業革命が欧米中に広まることで、資本主義という経済システムも欧米中に広まったんです。
こうして「資本主義社会」が誕生したんですね。
だから資本主義における産業革命の意味とは、産業革命が資本主義をスターダムに押し上げた、という点にあります。
資本主義が生まれる背景
資本主義が生まれるにはいくつか条件が必要です。
上の定義でみた5項目に沿って、条件を挙げましょう。
①土地や機械などの私有が認められている社会であること。つまり私有財産制の社会。
②生産手段を持たない労働者がたくさんいること。つまり奴隷とか、田畑を失った農民とか、人口増加によって都市に出てきたあぶれ者とかが大量にいる社会。
③貨幣経済が浸透していること。労働者は労働と時間を売って代わりに賃金をもらい、それで生活用品を手に入れるわけだから。
④市場で商品が自由に取引されること(=市場経済)。その結果、需要と供給のバランスにより、自動的に商品価格が決まる。権力者が一方的に商品価格を決めたりはしない社会。
⑤お金儲け(=利潤追求)が一番重視される社会であること。
こうした条件がそろわなければ、資本主義は生まれません。
では、これらの条件がどのように整っていったのか、資本主義の歴史をかんたんに見てみましょう。
資本主義のたどった歴史
資本主義はどんな歴史をたどったのか。
資本主義の成立前、誕生、産業革命以前、産業革命以後という4つの時期にわけて見ていきましょう。
資本主義の成立前
資本主義が産声をあげたのは、ルネサンス時代のヨーロッパです。
それ以前にも世界中に資本主義の原型はあったんですが、5つの条件すべてがそろいませんでした。
たとえば古代ギリシアのアテネでは、私有財産が認められ、貨幣経済も発展していました。
また世界初の民主主義国家だったので、市場経済も機能していたはずです。
でもアテネには、大量の労働者と、お金儲け第一主義がありませんでした。
つまり奴隷だけでは労働者として少なすぎたんです。
またアテネの市民はお金儲けよりも哲学に興味があったんです。
中国もずっと、人口が多いから労働者もいたし、貨幣経済の発展も市場規模も世界有数でした。
また中国にはハングリーな人が多く、お金儲けを第一に目指す人も昔からたくさんいました。
でも中国には、「私有財産の不可侵」という理念がありませんでした。
それでときの王朝が重税を課したり、役人が賄賂として取り上げたりしたので、資本家が育たなかったんです。
お金儲けを目指す人は資本家となるよりも、権力者となるほうを選んでいったのが中国でした。
もちろん世界中をみわたせば、資本主義のおこなわれた社会もあったでしょう。
ただ、現在につづく資本主義が生まれたのは、14世紀のヨーロッパ、フランドル地方からということになります。
資本主義の誕生
中世のヨーロッパでは、11世紀ごろから商業が発展して、商人が力をつけはじめました。
とくにフランドル地方(いまのベルギー、オランダ、北フランスあたり)などでは、商人みずからが支配する自治都市が出現しました。
この自治都市というのは、力をつけた商人が封建領主を追い出してつくった都市です。
ブルージュなどが有名ですね。
こうした自治都市では、商人自身が支配者なので、お金儲けはなにより重視されます。
私有財産を勝手に奪われることもありません。市場経済もだれにも邪魔されません。
また貨幣経済もすでに発達し、遠隔地貿易が栄えていました。
そしてこうした自治都市に、たくさんの農奴たちが「都市の空気は人を自由にする」と言って、封建社会の束縛から逃げこんできました。つまり大量の労働力が生まれました。
こうして14世紀までに、フランドル地方に資本主義の条件がそろったのです。
フランドル地方の資本家たちは、馬具や水車や圧縮機といった生産手段を私有して、労働者を働かせました。
そして大量の小麦をつくらせて商品として売ったり、羊毛を染めさせて商品として売ったりしました。
これが史上はじめての資本主義です。
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産業革命以前の資本主義
資本主義はその後、各地の都市で芽生えました。
15世紀には北イタリアのヴェネツィアが発展します。
16世紀には現ベルギーのアントウェルペン(アントワープ)が資本主義の中心都市となりました。
そして17世紀には、オランダのアムステルダムが中心となって、資本主義が栄えました。
でもこれらの資本主義は、どれもこじんまりしたものでした。
つまり社会全体を変えていくような大きなものじゃなかったんです。
それが、18世紀後半以降、イギリスの産業革命によって事態は一変します。
資本主義という経済システムがイギリス全土を覆い、欧米全土を覆い、ついには世界中を覆っていくのです。
産業革命以後の資本主義
イギリスの産業革命は、機械の生産性と、労働者の多さという2点で、それまでとは段違いでした。
蒸気機関を導入した機械は、14世紀の水車とはけたちがいの量の製品を産み出しました。
また人口増加によってマンチェスターやリヴァプールに集まった労働者の数は、アムステルダムの人口の比ではありませんでした。
その結果、大量の製品が市場を席巻し、大量のマネーがあふれ、そして資本家は莫大な儲けを手にしたのです。
つまり産業革命によって、資本主義という経済システムは一気に巨大化したのです。
この巨大化はフランスやアメリカなど、遅れて産業革命(工業化)を果たした国でも同様でした。
それでこれらの国では、社会、生活、政治・経済上のおおきな変化を経験したのです。
[前回までの記事]
そしてあふれかえった製品とマネーは、やがて非工業国をも巻きこんでいきます。
アジア、アフリカ、ラテンアメリカといった地域に大量の工業製品が売りつけられ、逆にこれらの地域は原料を輸出するだけの存在に落とされました。
また工業化を果たした国々は、莫大なマネーを使って軍事力を行使し、金融をあやつり、ますます利益を上げました。
こうして19世紀、世界は資本主義という経済システムのもと一体化し、そして産業革命を果たした「先進国」と果たせなかった「低開発国(または植民地)」に二分されたのです。
これが、5回目の記事でもすこし述べましたが、産業革命によって資本主義が巨大化したことの帰結です。
資本主義社会になって何が変わったのか
資本主義が巨大化したこと、つまり「資本主義社会」となったことで、それまでとおおきく変わったことは他にもあります。
最後に、資本主義の拡大によって変化した点を4つ見ていきましょう。
「私有財産の不可侵」が人権のひとつになる
18世紀末におこったフランス革命で、かの有名な「人権宣言」が採択されました。
フランス人権宣言の主な主張は、自由、平等、国民主権、そして私有財産の不可侵でしたよね。
これ、資本主義の広まりと関係しています。
つまり「私有財産の不可侵」とは、資本家たちの国にたいする主張なんです。
「たとえ国家であっても、おれたちの土地や機械を勝手に没収したり、おれたちが儲けた金を勝手に奪ったらダメだ」と。
最初のほうで、資本主義の条件のひとつに「私有財産制」と書きました。
私有財産が認められないと、資本家という存在は成り立ちません。
だから人権宣言や、アメリカの独立宣言や、日本国憲法などに、私有財産の不可侵が重要な人権のひとつとして書かれるようになったんです。
これはもちろん、資本家が権力をもつようになったという近現代の歴史の帰結でもあります。
「自由」と「民主主義」も重要な価値観となる
資本主義の条件のひとつに、「市場で商品が自由に取引されること(=市場経済)」というのもありました。
自由な取引の市場があることで、自由競争が生まれ、良い製品・安い製品が買われるわけです。
またここでは、消費者が自由に商品を選べることも重要です。
そうじゃないと、たとえばイギリスの資本家がいくら良い製品・安い製品をつくっても、「インド人はイギリス製品を買っちゃダメ」という法律をつくられたら、インド市場で売れないんです。まあイギリスの場合、インドごと植民地にすることでそうならないようにしたんですが。
(インド直接統治の詳細は11回目の記事参照)
なので、資本主義にとって「自由な取引」と「消費者である一般市民が選ぶこと」は必要不可欠なんです。
後者は言い換えれば、「民主主義」です。
だから資本主義社会では、自由と民主主義が重要とされるんですね。
およそ資本主義のあるところ、自由と民主主義という2つの価値観はかならずセットで付いてきます。
だから資本主義が世界を席巻する現代、TPPでは自由化が叫ばれ、イスラム諸国では民主化が叫ばれるわけです。
貧富の格差の拡大
3つめの変化は貧富の差の拡大です。
これは現代社会でも多くの人が認識していることでしょう。
資本主義によって資本家のもとにはますます多くの富が集まり、逆に生産手段をもたない労働者はますます貧しくなる。
この格差の拡大がはじまったのが、18世紀後半以降、産業革命によって資本主義が社会を覆うようになってからだったのです。
ただ貧富の格差というのは昔からありました。
でもそれは数パーセントの支配者と、90パーセント以上のその他の人々という格差でした。だから一般人からすれば「まわりはみんな貧乏」という状況で、格差を実感しにくかったんです。
しかし産業革命以降、金持ちの資本家が大量に現れます。
「となりの山田さん、事業で当てて大金持ちになったらしい」というような状況がしょっちゅう生まれます。
これでわれわれも、富める者と貧しい者の格差を身近に感じるようになったんです。
人間は嫉妬する生き物なので、こうした状況はがまんできません。
それで生まれた思想が「社会主義」でした。
社会主義という思想が生まれる
前回の記事でも触れましたが、社会主義というのは資本主義の矛盾を解決しようとする思想です。
さっき述べた貧富の差の拡大にくわえ、過酷な労働環境や、スラムの発生など、19世紀のヨーロッパでは資本主義の巨大化によっていろんな問題が起こっていました。
そしてどの問題も、労働者にとって不利なものだったんです。
だから労働者の側に立って、労働者中心に、この社会をより良くしようと、いろんな人が唱えはじめます。
こうした思想を総称して「社会主義」といいます。
たとえばイギリスの紡績工場の経営者だったロバート=オーウェンも、社会主義を唱えたひとりです。
かれはじっさいに自分の工場で労働条件を改善したりしたんですが、これによって「1日の労働時間が10時間以下に改善した」そうです。それまで労働者はいったい何時間働かされていたのかって話ですね。
また、1848年に「共産党宣言」を発表したマルクスとエンゲルスの2人も、社会主義思想家として有名です。
かれらは労働者の待遇改善という単純な考えからさらにすすんで、資本主義自体を否定し、新しい経済システムを唱えました。
- 土地や機械などの生産手段はみんなの共有とする。
- 私有財産制も廃止する。
こうして資本家vs.労働者という階級対立をなくし、平等な社会をつくりあげる、というものです。
高校生からわかる「資本論」 池上彰の講義の時間 [ 池上彰 ]
マルクスとエンゲルスの唱えた主張は「共産主義」と呼ばれます。
じっさい20世紀には共産主義の考え方にもとづいて、ソビエト連邦や中華人民共和国などの共産主義国が誕生しました。
だから共産主義とは、社会主義という思想のなかのひとつです。
福祉を充実するのも、市場経済に国家が介入するのも、広い意味でいえば社会主義なんですね。
まとめ
○資本主義とは、
- 土地や機械などの生産手段を私有している人が
- 生産手段をもたない労働者を雇って
- 賃金で働かせ
- 商品をつくらせて市場に売って
- さらにお金(資本)を儲けようとする
経済システムのこと。
○産業革命によって資本主義が一気に巨大化。
やがて欧米はじめ世界中を覆って「資本主義社会」となった。
○資本主義が生まれる条件は、
- 私有財産制
- たくさんの労働者の存在
- 貨幣経済の浸透
- 市場経済
- お金儲け第一主義
という5つ。
○現代につづく資本主義は14世紀のフランドル地方から。
その後、ヨーロッパの各都市で発展した。
やがて産業革命によって一気に巨大化する。
そして世界を先進国と低開発国に二分した。
○資本主義社会となったことで、
- 私有財産の不可侵・自由・民主主義という価値観が定着。
- また貧富の格差が世界中で実感されはじめる。
- そして社会主義思想も生まれた。
長い記事になってしまった!
ってことで、イギリスの「ジェントルマン資本主義」については次回!
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