中2数学「連立方程式」の教え方、4回目です。
今回は連立方程式計算の応用。
小数・分数がある問題はどう解けばいいのか、端的にわかりやすく教える方法をお伝えします。
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応用問題に入る前に
と、その前に、基本がちゃんと身についているか確認しましょう。
基本問題を復習すべき生徒
この連載でずっと言い続けてますが、連立方程式単元のいちばんの目標は「記述式の解答を書ききる力」、これを中学生に身につけさせることです。
この力は単元の前半で身につけさせなきゃいけません。
よって、途中の計算過程や日本語をちゃんと書けない生徒はまだ、小数・分数問題に入らせるべきではない。
具体的には、以下のどれかに当てはまる中学生です。
- 「③を①に代入して」等の言葉を省略する
- 字が汚すぎて or 小さすぎて、読めない
- 左端に「=」を書く等、数式がどこかおかしい
- 「どう計算したの?」と聞いても、自分の解答を解説することができない
1つでも当てはまる中学生には、加減法と代入法の基本問題を復習させましょう。
けっこういるハズですよ。
ちなみに、こういう生徒に対しては罫線入りノートがおすすめです。
特に字が汚くて読めない子、書く字がものすごい右上がりになる子、詰め詰めの隙間のない解答を書く子……。
こういう中学生には、罫線入りノートでしつけると治ることが多いです。
コツは、罫線入りノートを一行ずつ空けて使うこと。
一行ずつ空けて書くことで、あとから見てもわかりやすい解答となります。
はじめは見本を示して、徐々に導いてやってください。
応用問題で身につける力
上記をすべてクリアした中学生に、小数・分数を含む連立方程式を教えていきます。
ここで教える側がもっとも意識すべき点。
つまり中学生に身につけさせるべき指導上の目標とは何か?
それは、「どう解けばラクできるか」と考えるクセ、です。
前回の最後にも書きましたが、連立方程式を解くときは、まず問題の形をよく観察すること。そしてどの方法で解けばいちばんラクできるかと、悩むこと。
こういう考え方を常にするようになると、連立方程式を早く正確に解けるようになります。
逆にいえば、この考え方のクセを身につけないと、いつまでたっても「どの方法で解けばいいの?」と質問しつづける生徒のままです。
よって、指導者はこの応用問題に入ってから、発問を多用するといいでしょう。
わたしはいつもそうしています。
「両辺を何倍すればいい?」
「このまま筆算する?」
「この式、もっと簡単にできないかな?」
「どっち(どれ)に代入するとラクそう?」
こんな発問(質問ではなく)をしていくことで、生徒が自然と「どう解けばラクできるか」と考えるようになります。
これから指導案を見ていきますが、発問の多用がキーなんだということをぜひ念頭に置いて読んでみてください。
小数を含む連立方程式
これから連立方程式の計算の応用に入る。
まずは小数のある問題。
難しい?いや、簡単だよ。
だから集中して、「どうやって解けばいいか」と常に考えながら聞いてくれ。
解き方
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0.6x-0.7y=-1 \\ 0.3x+0.1y=1.3 \end{array} \right.\end{eqnarray}
小数を含む連立方程式は、このまま解いても解ける。
ただ、小数の計算って正直めんどくさい。
どうにかして、この2つの等式から小数を無くしたい。
どうすればいいと思う?
そう、両辺を10倍すればいい。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0.6x-0.7y=-1 \ \large{\mbox{…①}} \\ 0.3x+0.1y=1.3 \ \large{\mbox{…②}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
①×10、②×10をして
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 6x-7y=-10 \ \large{\mbox{…①’}} \\ 3x+y=13 \ \large{\mbox{…②’}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
②’×2で
$$ 6x+2y=26 \ \large{\mbox{…②’’}} $$
①’-②’’をして
\begin{eqnarray} 6x-7y &=& -10 \\ -) \ 6x +2y &=& 26 \\ \hline -9y &=& -36 \\ y &=& 4 \ \large{\mbox{…③}} \end{eqnarray}
③を②’に代入して
\begin{eqnarray} 3x+4 &=& 13 \\ 3x &=& 9 \\ x &=& 3 \end{eqnarray}
答.\(x=3 , y=4\)
両辺を10倍したあとは、ただの加減法だ。
\(x\) の係数を \(6\) に合わせようと思ったので、②’をさらに2倍した。
んで引き算して \(y=4\) と出して、あとはどれかの式にそれを代入して \(x\) も出した。
ポイントは最初の「両辺を10倍」。
このように、小数を含む連立方程式は両辺を10倍、100倍……してから解くと、ラク。
注意点
注意点は2つ。
まず、両辺を10倍、100倍……するとき忘れやすいのが、整数も同じように倍すること。
$$ 6x-7y=-1 \ \large{\mbox{…①’}} $$
と間違える場合が多い。気をつけて。
また、\(y=4\) と出てから、どの式に代入したらいいか?
\begin{eqnarray} & &0.6x-0.7y=-1 \ \large{\mbox{…①}} \\ & &0.3x+0.1y=1.3 \ \large{\mbox{…②}} \\ & &6x-7y=-10 \ \large{\mbox{…①’}} \\ & &3x+y=13 \ \large{\mbox{…②’}} \\ & &6x+2y=26 \ \large{\mbox{…②’’}} \end{eqnarray}
と、5つ候補があるね。
\(x\) を求めるのにいちばん計算がラクそうなのは?
うん、先生も②’だと思う。だから②’に代入した。でも別に①’でもいいよ。
大切なのは、どうすれば計算がいちばんラクになるかと考えることだ。
常にそう考えるようにすると、計算ミスが減ります。
では、解答を正しく書き写したら、類題を一緒に解いてみよう。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0.5x-1.2y=7.8 \\ 0.09x+0.04y=0.38 \end{array} \right.\end{eqnarray}
(答.\(x=6 , y=-4\))
*一緒に解きながら、下の例のように適宜発問すること。
「上の式は何倍する?」
「下の式は何倍する?」
「加減法と代入法、どっちでいく?」
「\(x\) と \(y\) どっちの係数をそろえる?」
「たす?ひく?」
「どの式に代入する?」
……
発展問題
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0.1x+0.15y=2 \ \large{\mbox{…①}} \\ 0.5y=-x+10 \ \large{\mbox{…②}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
この連立方程式も、一緒に解いてみよう。
①は何倍する?100倍ね。
②は何倍する?10倍ね。
①×100、②×10をして
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 10x+15y=200 \ \large{\mbox{…①’}} \\ 5y=-10x+100 \ \large{\mbox{…②’}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
さて、このまま加減法または代入法で解いてもいいが、両方の式とも係数の数字がでっかいよね。そして両方の式とも、係数がぜんぶ5の倍数だよね。
だから、5で割る( \(\frac{1}{5}\) をかける)と、係数がちいさくなって計算がラクになるね。
①’×\(\frac{1}{5}\) 、②’×\(\frac{1}{5}\) で
\begin{eqnarray} & &2x+3y=40 \ \large{\mbox{…①’’}} \\ & &y=-2x+20 \ \large{\mbox{…②’’}} \end{eqnarray}
あとは加減法または代入法で解くだけだ。
どっちでいく?代入法ね、OK。
②’’を①’に代入して
\begin{eqnarray} 2x+3(-2x+20) &=& 40 \\ 2x-6x+60 &=& 40 \\ -4x &=& -20 \\ x &=& 5 \ \large{\mbox{…③}} \end{eqnarray}
③を②’’に代入して
\begin{eqnarray} y &=& -10+20 \\ y &=& 10 \end{eqnarray}
答.\(x=5 , y=10\)
以上のように、係数を整数にしたあとも数字がでっかくてイヤなら、そして係数がぜんぶ何かの倍数なら、両辺を割って数字を小さくすることができる。
これもまた、計算をラクにする方法のひとつだ。
ぜひ覚えて使おう。
*ちなみに、気づく子には、②×2でいきなり \(y=-2x+20\) となることを教えてもいい。
分数を含む連立方程式
続いて分数のある連立方程式。
これも難しくない。
ポイントは同じ、「両辺を何倍かする」ことだ。
解き方
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \frac{3}{4}x+\frac{1}{2}y=3 \\ \frac{1}{2}x-\frac{1}{6}y=5 \end{array} \right.\end{eqnarray}
この2つの等式から分数を無くしたい。
どうすればいい?
うん、上の式には両辺に \(4\) をかける。
下の式には両辺に \(6\) をかける。
つまり分母の最小公倍数を両辺にかければいいんだ。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \frac{3}{4}x+\frac{1}{2}y=3 \ \large{\mbox{…①}} \\ \frac{1}{2}x-\frac{1}{6}y=5 \ \large{\mbox{…②}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
①×4、②×6をして
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 3x+2y=12 \ \large{\mbox{…①’}} \\ 3x-y=30 \ \large{\mbox{…②’}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
①’-②’をして
\begin{eqnarray} 3x+2y &=& 12 \\ -) \ 3x-y &=& 30 \\ \hline 3y &=& -18 \\ y &=& -6 \ \large{\mbox{…③}} \end{eqnarray}
③を①’に代入して
\begin{eqnarray} 3x-12 &=& 12 \\ 3x &=& 24 \\ x &=& 8 \end{eqnarray}
答.\(x=8 , y=-6\)
分数がなくなったら、あとは加減法か代入法で解くだけ。
このように、分数を含む連立方程式は両辺に「分母の最小公倍数」をかけると、ラク。
注意点
解き方はわかった、でも自分で解くとどうしても計算ミスがあったり途中で詰まったりする……。
こういう場合、原因は2つある。
ひとつは、整数に最小公倍数をかけるのを忘れるパターン。
小数と同じで、等式なら常にぜんぶを倍する、という意識を持つようにしよう。
もうひとつは、中学1年次の「1次方程式」が未習熟のパターン。
つまり分数のある1次方程式がさっと解けないまま、ここまで来てしまった人だ。
具体的には、
- 最小公倍数がパッと出てこない
- (分数)×(整数)が暗算できない
こういう中学生は、以下の記事に習熟の仕方が詳しく書いてあるので、参考にすること。
特に2ケタ×1ケタの暗算を練習すること。
では、解答を正しく書き写したら、類題を一緒に解いてみよう。
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \frac{5}{6}x-\frac{1}{2}y=\frac{11}{2} \\ \frac{2}{3}x-\frac{1}{4}y=5 \end{array} \right.\end{eqnarray}
(答.\(x=9 , y=4\) )
*一緒に解きながら、下の例のように適宜発問すること。
「上の式は何倍する?」
「下の式は何倍する?」
「加減法と代入法、どっちでいく?」
……
*この類題で以下の計算につまずく中学生には、上の記事を参考にして復習させること。
・最小公倍数が \(6\) , \(12\) と瞬時に出ない。
・\(\frac{2}{3} \times 12\) が暗算できない。
・\(5 \times 12\) が暗算できない。
発展問題
\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} \frac{x+5y}{2}+2x=10 \ \large{\mbox{…①}} \\ \frac{2}{3}x-\frac{x-3y}{4}=1 \ \large{\mbox{…②}} \end{array} \right.\end{eqnarray}
この連立方程式も一緒に解いてみよう。
分子に多項式がある問題だ。
まず①は両辺を何倍する?2倍ね。
①×2で
\begin{eqnarray} x+5y+4x &=& 20 \\ 5x+5y &=& 20 \ \large{\mbox{…①’}} \end{eqnarray}
このように、分母をはらった後まとめる必要がある。
全部を2倍することと合わせて、忘れないように。
次に②は何倍する?12倍ね。
①×12で
\begin{eqnarray} 8x-3(x-3y) &=& 12 \\ 8x-3x+9y &=& 12 \\ 5x+9y &=& 12 \ \large{\mbox{…②’}} \end{eqnarray}
このように、「分子が多項式の分数」の前に「マイナス」か「係数」がある場合、分母をはらった後もかっこを付ける必要がある。
なぜなら
$$ -\frac{x-3y}{4} \times 12 $$
の暗算は難しいし、間違えやすいからだ。
特に後半を \(-9y\) としてしまうミスが多い。
かっこを付けてから、分配して、まとめる。これも忘れずに。
あとは加減法でいくかい?
①’-②’をして
\begin{eqnarray} 5x+5y &=& 20 \\ -) \ 5x+9y &=& 12 \\ \hline -4y &=& 8 \\ y &=& -2 \ \large{\mbox{…③}} \end{eqnarray}
③を①’に代入して
\begin{eqnarray} 5x-10 &=& 20 \\ 5x &=& 30 \\ x &=& 6 \end{eqnarray}
答.\(x=6 , y=-2\)
以上のように、分子に多項式がある問題は
- 分母をはらう時にかっこを付ける
- 分母をはらった後まとめる
この2点を忘れないこと。
じゃ、たくさん問題を解いて「わかる」を「できる」にしていこう。
まとめ
中2数学 連立方程式の小数・分数問題は、記述式の解答を書ききる力が身についてから入る。
なぜなら、ここではさらに「どう解けばラクできるか」と考えるクセを身につけるべきだから。
教える側は小数・分数問題で発問を多用し、生徒自身に考えさせるようにする。
連立方程式の小数問題は、両辺を10倍、100倍……してから解くとラク。
注意点は3つ。
- 整数も忘れずに倍すること
- どの式に代入すれば計算がラクかと常に考えること
- 係数がでっかいなら割って小さくもできること
連立方程式の分数問題は、両辺に分母の最小公倍数をかけるとラク。
注意点は3つ。
- 整数も忘れずに倍すること
- 計算でつまずく中学生は2ケタ×1ケタの暗算を復習すること
- 分子に多項式がある場合、かっこを付けて分母をはらうこと
次回から連立方程式の文章問題に入ります。
1回目は「文章を読んで方程式を立てる」ときのコツについて。
あらゆる文章題に当てはまる基本なので、文章題が苦手という生徒はぜひ参考にしてください。
[連立方程式の記事一覧↓]
コメント
今回もたいへん参考になりました。
両辺を~倍する、ということ自体は、連立方程式に入る前の復習で確認済み、という前提ですよね?
であれば、上記のようにその点を詳しく説明する必要はない(むしろ論理的に解答を書ききる力を育てる妨げとなる)と思いましたが、いかがでしょうか?