中学数学の教え方について、具体的に解説するこの連載。
今回は中2数学「等式の変形」です。
やり方を示しても、自力ではできない…。
分数まじりの難問になると、解き方の順番がめちゃくちゃ…。
なぜこうなるの?わからないと言ってくる…。
こういう中学生はどこでつまずいているのか、そしてどんな指導が効果的なのか。千人以上の指導経験をもとに解説していきます。
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「等式の変形」でつまずく3つの原因
まずは「等式の変形」で中学生がつまずく原因から。
生徒たちの誤答でいちばん多いのは、この図のようなミスです↑。
なぜこんなミスをしてしまうのか?
「移項」と「係数を1にする」が頭のなかでごっちゃになっているからです。
1.「移項」と「係数を1にする」がごっちゃ
\begin{eqnarray} xy &=& 7 \quad \mbox{[y]} \\ y &=& \frac{7}{x} \end{eqnarray}
\begin{eqnarray} x+y &=& 7 \quad \mbox{[y]} \\ y &=& 7-x \end{eqnarray}
この2つを区別できない。
これが「等式の変形」で中学2年生がつまずく原因のひとつです。
なぜ中2にもなって「移項」と「係数を1にする」という操作が区別できないんだ!? 大人はそう思うかもしれませんが、ちゃんと理由があります。
1次方程式の導入の指導案でも書きましたが、そもそも学校の指導の順番が「移項」と「係数を1にする」をごっちゃにしているからです。なので、中1のときに1次方程式の計算をなんとなーくで乗り切った子は、中2「等式の変形」になって弱点を露呈するんですね。
したがって、こういう中学生に対しては、
- 両辺に項が1つずつ→項が2つ以上 という順番で問題に習熟させる
- そのときどきで1次方程式の解き方を示し、比較しながら進める
という指導が効果的です。
具体的な教え方は後でくわしく解説します。
[関連記事]
中1「1次方程式」でつまずく原因と解決法① 導入
中1「1次方程式」でつまずく原因と解決法② 移項と基本の計算
2.「逆数をかける」で統一されてない
つまずく原因はあと2つあります。
そのうちひとつは、係数を1にする方法が「両辺に逆数をかける」と頭のなかで統一されていないこと。
つまり \(xy=7 \ \mbox{[y]} \) の係数 \(x\) をなくす方法は、
両辺に \( \frac{1}{x} \) をかける、じゃなくて
両辺を \(x\) で割る で覚えてしまっていること。
これが等式の変形でつまずく2番目の原因なんです。
えーどっちでもいいじゃん、些細なことだろ、と思われるかもしれませんが、「両辺を割る」で覚えている生徒は以下のようなミスをよくします。
\begin{eqnarray} ab &=& \frac{4}{3} \quad \mbox{[b]} \\ b &=& \frac{4a}{3} \end{eqnarray}
これ、「両辺に \( \frac{1}{a} \) をかける」で覚えていれば、防げるミスです。
よって指導においては、
- 係数をなくすには両辺に逆数をかける、で統一する
- 「割る」「割り算」という言葉は使わない
という注意をすると効果的です。
実際の教え方はこれも後でくわしく解説します。
3.文字だらけの答えでいいのか不安
つまずく原因の最後は、出た答えが文字だらけで、これで本当に解答としていいのか不安というやつです。
正答が出たのに、その答えをじーっと見て固まっている…。
難しい顔をしたあと、その正答を消してまたやり直す…。
やり直しの計算も途中で止まって、結局「わからない」と言ってくる…。
こんな中学生がこれに当たります。
よって、こういう生徒には、
- 「これでいいのだ!」とハッキリ伝える
- 等式変形がこのあと数学でどのように活きるのか、ちょっと見せる
という指導が効果的です。
とくに2つめについては記事の最後にいくつか例を載せるので、参考にしてください。
- 「移項」と「係数を1にする」がごっちゃ
- 係数をなくす方法が「逆数をかける」で統一されていない
- 文字だらけの答えでいいのか不安
以上3つの原因をすべて解消する指導案を、これから紹介します。
「等式の変形」を指導するすべての方に、参考にしていただければと思います。
指導案①:項が1コずつ
まずは、項が左辺と右辺に1コずつの問題から指導します。
ちなみに「○について解け」とは「○=~」の形に変形すること、と最初に伝えるのは忘れずに。
基本問題
例1)次の等式を、[ ]内の文字について解け。
$$ \mbox{(1)} \ 3x=y \quad \mbox{[x]} \qquad \mbox{(2)} \ 2a=5b \quad \mbox{[b]} $$
まず中1の1次方程式を復習しよう。
たとえば
$$ 3x=7 $$
という1次方程式を解くには、両辺に \( \frac{1}{3} \) をかけて
$$ x= \frac{7}{3} $$
としたね。
同じように(1)も、\(3x=y\) の左辺から \(3\) という係数を取っぱらって \(x=\)~ の形にするんだから、両辺に \( \frac{1}{3} \) をかければいい。
(2)はどうだろう。
たとえば \(2=5x\) という1次方程式はこう解いたよね↓
$$ 2=5x $$
左辺と右辺を入れかえて
$$ 5x=2 $$
両辺に \( \frac{1}{5}\) をかけて
$$ x= \frac{2}{5}$$
だから、やりかたは同じだ。
わかったら、自分でもういちど解いてごらん。
応用問題
例2)次の等式を、[ ]内の文字について解け。
$$ \mbox{(1)} \ cd=4 \quad \mbox{[d]} \qquad \mbox{(2)} \ cd=\frac{4}{3} \quad \mbox{[d]} $$
(1)の等式を「\(d=\)~」の形にしたい。
両辺に、何をかければいい?
そう、\(\frac{1}{c}\) だ。
(2)はわかる?
わからないなら、以下の1次方程式の解き方を見て。
$$7x=\frac{4}{3}$$
両辺に \(\frac{1}{7}\) をかけて
$$x=\frac{4}{21}$$
…もう、できるね?
わかったら、自分でもういちど解いてごらん。
発展問題
例3)次の等式を、[ ]内の文字について解け。
$$ \mbox{(1)} \ \frac{x}{6}=yz \quad \mbox{[x]} \qquad \mbox{(2)} \ a=\frac{c}{b} \quad \mbox{[c]} $$
たとえば、以下の1次方程式はこう解いた。
$$ \frac{x}{6}=8$$
両辺に \(6\) をかけて
$$x=48$$
(1)も同じようにやればいい。
(2)はもう自力でわかるかな。
最後、両辺に \(b\) をかければいいね。
わかったら、自分でもういちど解いてごらん。
難問
例4)次の等式を、[ ]内の文字について解け。
$$ \mbox{(1)} \ S=\frac{1}{2}ah \quad \mbox{[h]} \qquad \mbox{(2)} \ V=\frac{4}{3}\pi r^3 \quad [\pi] $$
いままでの知識を使って、等式の変形でよく出る難問にチャレンジしよう。
(1)から、ていねいに行くよ。
$$S=\frac{1}{2}ah \quad \mbox{[h]}$$
左辺と右辺を入れかえて
$$\frac{1}{2}ah=S$$
両辺に \(2\) をかけて
$$ah=2S$$
両辺に \(\frac{1}{a}\) をかけて
$$h=\frac{2S}{a}$$
つづいて(2)。「\(\pi =\) ~」の形に変形するよ。
$$V=\frac{4}{3}\pi r^3 \quad [\pi] $$
左辺と右辺を入れかえて
$$\frac{4}{3}\pi r^3=V$$
両辺に \( \frac{3}{4}\) をかけて
$$ \pi r^3=\frac{3V}{4}$$
両辺に \( \frac{1}{r^3}\) をかけて
$$ \pi= \frac{3V}{4r^3}$$
\(\frac{4}{3}\) という係数を取っぱらうには、逆数である \(\frac{3}{4}\) を両辺にかければよかったね。
では、再度自分でやったら、類題をたくさん解いて「わかる」を「できる」にしていくこと。
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コメント
中2の生徒なんですけど、1学期の期末の時にこのサイトでも出た発展問題のとこが解けず結果は90点でした。なので間違えた部分を復習をしようと考えたのですが等式の変形は教科書を見てもイマイチ理解ができませんでした。しかし、このサイトのおかげで完璧とは言えるかはわかりませんがテストの問題はすべて解けるようになりました。
ありがとうございます!
[]内の文字が右辺にあって、-が付いている場合は、
最初に右辺と左辺をひっくりかえした方が計算ミスが少ない
(上の方法では、-1をかけるところで計算ミスをする生徒が多い)、
と感じていますが、どうですか?
例えば、例7(2)なら
x=7y-21z+4 [y]
7y-21z+4=x
7y=x+21z-4
y=(x+21z-4)/y
という風にです。