こんにちは、ジュウゴです。
科学の歴史の流れ、第2弾。
今回は20世紀の「相対性理論と量子力学」から「分子生物学」、そして現代までを扱います。
科学全体の歴史を見通す参考にしてください。
前回の記事:科学の歴史の流れを超簡単にまとめてみた① 18~20世紀
20世紀前半:2大革命の時代
19世紀が「化学の世紀」なら、20世紀は「物理の世紀」。
なぜなら相対性理論と量子力学という2大革命によって、科学がガラリと変わったからです。
相対性理論
1905年、アインシュタインが以下のことを言い出す。
「『静止してる人にも等速運動してる人にも、物理の法則は同じ』。このことを第一原理にしよう。とくに光の速さはみんな同じだよ」。
これにしたがうと、どんな基準でも物理法則が同じなら、特別な静止座標なんていらない。つまりエーテルいらない。
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ただ1コ問題が。
「光に向かって走っても光から逃げても、光速は30万kmで変わらない?おかしいよぜったい!」
この問題にたいする回答が、アインシュタインの天才たるゆえん。
おかしいのは私たちの空間・時間にたいする捉え方のほうで、相対性原理と光速度不変を受け入れるなら、空間が縮むし、時間が遅れるって言った。
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アインシュタインはさらにがんばって、重力もふくめた一般相対性理論を発表。
重力(引力)ってなに問題はニュートンも答えなかったけど、これでじつは「時空のゆがみ」ってわかる。
1919年の日食観測で、星の光の曲がりぐあいがアインシュタインの予測と一致して、みんな納得。
こうして相対性理論がニュートン力学&電磁気学の上位互換バージョンになる。
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相対性理論の登場によって、
- 時間・空間が物質の背景じゃなく、それ自体で主役になった
- その方程式に宇宙の静止がふくまれてなかったため、宇宙には始まりがあるとわかった
とくに2番目から、現代宇宙物理学がはじまる。
ついでに人類が月に行けたり、GPS機能が使えたり、\(E=mc^2\) から莫大なエネルギーが取り出せたりもする。
量子力学
一方、ミクロの科学では前回も述べたとおり、「量子」という、波とも粒子ともつかない概念が出てくる。
でも波でも粒子でもないなら、それ、位置がどこ・運動量がなんぼとか言えない。
近代科学って物理量を数式で表す学問だよ?
どうすんの?
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ここでハイゼンベルクというイケメンが「量どうしの関係(=演算子または作用素)を一コの物理量ってことにしよう!」と言い出す。
つまり波長と運動量の関係とか、振動とエネルギーの関係とか、とにかく量子について観測可能な量どうしをひっつけて、ひとつの物理量にしようと。
んでそれらを数式で表しちゃろうと。
こうして1925年に生まれたのが、ハイゼンベルクたちの行列力学と、シュレーディンガーの波動方程式。
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こうした数式から出てくるのは、決まった値じゃなくて、たとえば電子の位置と運動量の関係。
しかもそれ、統計力学チックな確率分布だったりする。
この解釈をめぐって、ボルンっておっさんが「電子の存在確率だ」と言い出す。
つまり電子ってのはあそこに80%、そっちに50%、地球の真裏にも0.0001%と広がってて、それらが同時に重ね合わせの状態でいるんだ、と。
でも観測するとなぜか1点に収束しちゃんだと。
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「ふざけるな!神はサイコロを振らない」
「死んでる猫と生きてる猫が重なってる?そんなはずない!」
でも量子力学の計算は、実験とみごとに一致。
ついでにハイゼンベルクが「ミクロの世界には本質的に不確定な関係があるんだ、それを認めるのが量子力学である」と宣言して、コペンハーゲン派の解釈が主流になる。
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こうして
- 状態と物質が区別できないミクロの世界
- 位置もエネルギーもすべては確率的
- だからたまに素粒子は因果律を無視して現れたりする(トンネル効果)
という摩訶不思議な量子力学の世界観が、「原因があって結果がある」という古典的な世界観にとって代わっていく。
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素粒子物理学へ
以上のように、1920年代までに、科学の基礎は相対性理論&量子力学という2本柱となる。
ついでにディラックっていう天才が特殊相対性理論と量子力学を統一して、さぁいよいよ人類がすべてを知る日も近いって雰囲気に。
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ところが1930年代、新たな粒子がたくさん見つかる。
まずディラックのつくった方程式からは「反粒子」が予想されて、現に発見されちゃう。
またパウリっておっさんは「ニュートリノ」という素粒子を予言しちゃう。
さらに宇宙線の研究から、湯川秀樹が予言してた、陽子と電子の中間くらいの重さのなにか(中間子)が見つかっちゃう。
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「ダメだ、いまある理論じゃ、こいつら説明できねぇ」ってんで、科学者たちは
- それ以上分割できない、ホンモノの素粒子はなに?
- 素粒子の間に働く力って何があるの?
- それらはどんな仕組みで成り立ってるの?
ということを調べだす。
こうして第二次大戦が終わるとともに、素粒子物理学が発展していく。
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その後、素粒子は「クォーク」「レプトン」「ゲージ粒子」「ヒッグス粒子」の4種類とわかる。
またこの世界にある力は「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4つってこともわかる。
そして素粒子と力の仕組みが、「対称性」という概念をカギにして、すこしずつ理論化されていく。
こうした雑多な知識をぜんぶひっくるめて標準模型という。
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2012年には標準模型最後の未発見、ヒッグス粒子が確認される。
いま、世界の素粒子物理学者たちは、標準模型のその先を探求しているトコロ。
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20世紀後半:分子生物学の時代
生命とは何か?
この解明は化学や物理にくらべて遅れていました。
しかし20世紀後半に分子生物学が誕生したことで、生物学は一気に進みます。
分子生物学以前
18世紀ころ、生物についてわかってたコトといえば、
- 生物は階層的に分類できる(カール・フォン・リンネの仕事)
- 生物の体は細胞が基本単位らしい(ロバート・フックたちの仕事)
ってことくらい。
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ここに19世紀、ダーウィンたちの進化論が加わる。
また顕微鏡の改良によって、生物は卵から徐々に形作られるとわかる(発生説)。
そしてメンデルが、遺伝には遺伝子の存在が関わってると発表する。
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でも進化・発生・遺伝という生命現象をそれ以上科学的に調べる方法がなかった。
そこで20世紀前半の生物学では、動物の行動を実験・観察しようという研究が盛んになる。
これはフロイトの精神分析への反発から。「残る研究課題は心・意識の解明だ。でもフロイトの方法は科学的じゃない!」ってわけ。
こうしてパブロフが犬に餌をやってベルを鳴らしたり。
ソーンダイクが猫を箱に入れて試行錯誤させたり。
ワトソンが赤ちゃんをわざと怖がらせたり。
こうした知見は心理学と教育学へ応用される。
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そのころ化学の世界では、タンパク質・酵素・代謝などの生命現象がすでに分子レベルで研究されていた。
そして遺伝子の正体についても研究がすすみ、ついに1944年、DNAという核酸のひとつがそれだとわかる。
またDNA中の4つの塩基(A,T,C,G)の割合が、生物種によってそれぞれちがうってことも判明。
「DNAの構造がわかれば、遺伝の仕組みもわかるぞ!」
こうして1950年代に分子生物学がはじまる。
DNA構造の解明
1953年、ワトソンとクリックという2人のおしゃべり野郎が、DNAは2重らせん構造になっていると発表。
つまりDNAとは、2本の鎖がらせん状に絡みあっていて、そのあいだは塩基が水素結合しているんだと。
そんで塩基はかならずAとGがセット、CとTがセットなんだと。
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これで何がわかるかというと、遺伝という情報がどう伝わるのかがわかる。
つまり細胞分裂のときこの鎖がバラけて、それぞれの鎖は新たなペアの鎖を複製する。AはGを、GはAをってぐあいに作られるから、新たにできた鎖って前のペアとまったく同じやつ。
これで、何兆というわたしの細胞がぜんぶおなじ遺伝子な理由も、子が父母の情報を半分ずつ受け継ぐ理由も、分子レベルで判明する。
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その後、もうひとつの核酸であるRNAの役割(転写messengerや翻訳transfer)も解明されて、
- DNAの4塩基の並びが生物の設計図
- その設計図がmRNAで核の外(細胞質→リボソーム)に運ばれる
- その情報をもとに、tRNAがアミノ酸を合成してタンパク質をつくる
というセントラルドグマが完成。
細菌からヒトまで、遺伝の仕組みを統一的に説明できるようになる。
分子レベルで生命を理解する
こうして、塩基配列を調べればいろんなことがわかるようになる。
たとえば生物の分類。
リンネは「動物界/植物界」、ヘッケルは「動物界/植物界/原生生物界」って分けてたけど、塩基配列を調べたらどうやら
- 細菌(大腸菌やシアノバクテリアなど)
- 古細菌(メタン菌や好熱菌など)
- 真核生物(動物や植物など)
の3ドメインに分けられるってなる。
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また、塩基配列の違いぐあいから、生物の進化も系統づけられる。
いまの生物や昔の化石の塩基配列をいろいろ調べると、生物が枝分かれしてきた歴史がわかる。
それを逆にさかのぼれば、約40億年前に生命が誕生し、ようやく約10億年前に多細胞生物が生まれたことなんかが判明。
またヒトの塩基配列も調べられて、人類って20種類以上いたこと、でもいまはホモ・サピエンスしか生き残ってないこと、原生人類は約20万年前にアフリカで誕生したことなどが判明する。
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そして、2003年にはヒトゲノムの解読が完了。
ホモ・サピエンスの標準的な塩基配列がわかったため、個体差や先天的異常が遺伝子レベルでわかるように。
これを利用してホモ・サピエンスは、出生前の胚を調べて子孫を選別することが可能になった。
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生命科学の世紀
21世紀は生命科学の世紀と言われている。
なぜなら塩基配列を調べるだけじゃなくて、DNAを大量につくったり、途中でちょん切ったり、ちがう塩基配列を差し込んだりするという遺伝子工学の技術が発展したから。
これによって何ができるかというと、
- 発生の順序を逆にさかのぼることで、分化した細胞を未分化な状態に戻せる(iPS細胞)。
- 遺伝子の設計図や伝達にはたらきかけて、病気を治療できる(遺伝子医療)。
- ブタの細胞にヒトの遺伝子を組み込んで、ブタ体内でヒトの内臓をつくって移植する(臓器移植)。
- テロメアという塩基配列を伸ばすことで、限界寿命を延ばす。
などなど。
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ちなみに、なぜ「生物学の世紀」じゃなくて「生命科学の世紀」と言ったか?
物理や化学の成果もたくさんあるから。
たとえば
- 生体膜の役割
- 免疫システム
- タンパク質の立体構造
などが、20世紀後半以降に解明されてきた。
おかげで、ちょうどよく効いてくれる麻酔とか、新しい抗体とかが開発された。
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いま、生命科学に関わる科学者たちは、さらなる医療の発展をめざしている。
同時に、20世紀前半の動物行動学者たちが果たせなかった「心・意識の解明」という問題に、脳科学から迫ろうとしている。
そして生命とは何かという問題を、もっと根本的につかもうとしているトコロ。
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現代科学の特徴
最後に、21世紀現在の自然科学の特徴を3つ、簡単に踏まえましょう。
- エレクトロニクスとコンピュータの発達
- 国家・軍事・巨大産業との連携
- 研究分野の細分化と再統合
という3つがそれです。
エレクトロニクスとコンピュータ
前回と今回の記事をみてわかるとおり、現代科学が解明してきた最たるもののひとつが、電子の性質。
そこで電子の性質を利用した技術(=エレクトロニクス)が盛んになった。
ラジオ・テレビ・オーディオ機器が生まれ、また電波望遠鏡・レーダー・通信機器が誕生する。
後者たちを使って、精密な観測や長距離通信が可能に。
結果、遠くの星々や分子の立体構造を見れたり、海外の論文がすぐに読めたりするようになり、科学の発展スピードが上がる。
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エレクトロニクスの中でも、とくにコンピュータは現代科学に必須。
だってアインシュタインが数週間かけた計算が、いまでは一瞬でできちゃうから。
この「計算処理がめっちゃ速い」というコンピュータの特徴によって、現代文明が成り立ってる。
またここから情報科学という分野が生まれ、物理・化学・生物・地球科学すべての領域へ応用されている。
ついでに数学にも応用されて、4色問題を解いちゃったのは有名。
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すでに量子コンピュータも実用化されて、さらなるスピードアップ。
ただ量子コンピュータが出回ると公開鍵暗号(URLの左のカギマーク)が成り立たなくなるかも。
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国家・軍事・産業と手を組む
1945年、広島と長崎に原子爆弾が落とされる。
核分裂のエネルギーを認めた人類は、それを潜水艦や発電にも利用しはじめる。
こうして原子力は国家を挙げたプロジェクトとなり、世界各国に原子力発電所がつくられる。
また核ミサイルをたくさん保有していく。
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冷戦まっただなかの1960年代、アメリカ空軍は「核戦争下でも生き残る通信の開発」を国内のシンクタンクに依頼。
結果、パケット通信というアイデアが生まれる。
これを、国防総省から資金提供うけてたプロジェクトが応用し、インターネット誕生。
1980年代にパーソナルコンピュータが普及したことを受けて、1990年代にはインターネットの商用利用が解禁される。
こうしてマイクロソフトやグーグルといった巨大ネット企業が生まれていく。
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資本主義によって莫大なカネを手にした巨大企業は、歴史をふりかえって気づく。
科学技術の革新がさらなるカネを生み出すのだと。
こうして科学は国家と軍事だけでなく、巨大産業とも手を組む。
これが現代科学の2つめの特徴。
つまり科学者はいま、国家・軍・企業のどれかから給料をもらってるということ。
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たとえばAI(人工知能)の研究には、
- 国家:隣国より優位に立てるぜ!
- 軍:無敵の兵士や軍隊が作れるぜ!
- 企業:AI搭載の商品、ぜったい売れるぜ!
というそれぞれのメリットがあるから、盛んなわけ。
知の共有・統合へ
現代科学の特徴3つめは、それぞれの研究分野が細分化しすぎていること。
科学の知識量って、ほかの学問ぜんぶ合わせたよりはるかに多い。
それで専門分化してきたんだけど、おかげで他の研究者が何やってるか、ジャンルがちょっとでも違うと専門家でもわからない。
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こうした専門性には昔から危機感があったけど、ひとりの頭で科学をぜんぶカバーするなんてもうムリ。
そこで最近、プロジェクトにしようと。
つまりみんなで協力して取り組んだらええやんってなってきた。
たとえば素粒子物理学の実験所CERNには、世界71か国から約1万人の研究者が参加してる。
宇宙創造の一瞬をつくる CERNと究極の加速器の挑戦 [ アミーア・D.アクゼル ]
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プロジェクトにすると、既存の知識もより深く・広く捉えられる。
たとえば「植物の光合成」なんて小学生でも習う知識だけど、
- 葉っぱの色素が光を吸収する過程←量子力学
- 色素の組成や立体構造←生化学
- ATPによるエネルギーの運搬←分子生物学
- 環境中の二酸化炭素の吸収量←生態学や環境学
というように、ミクロからマクロまで広く考えられる。
つまりいまや、たったひとつの現象にいろんな角度からアプローチできる時代。
南部陽一郎のような天才はなかなか出てこないけど、「広い視野をもつべき!」といたるところで言われるのは、こういう事情から。
以上、2回にわたって科学の歴史の流れを簡単にまとめてみました。
2022年度からは、高校に「歴史総合」という科目も登場します。
現代社会がなぜこうあるのか?
トータルな視点をもつために、この記事がすこしでもお役にたてば幸いです。
あと、最初にも言いましたがジュウゴはド文系なんで、科学にくわしい方々の指摘をお待ちしておりますm(_ _)m
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