フェミニズムという現代思想を考察する連載、5回目です。
今回からいよいよフェミニズムの果たした役割について書きます。
つまりフェミニズムは人口爆発にたいする淘汰圧であること。
また世界はすでにフェミニズムを「人口抑制策」として、そして「家族解体の道具」として使っていること。
こうした「人類史における思想の意義」という観点から、フェミニズムとは何なのかに迫りたいと思います。
今回はまずフェミニズム=少子化の証拠と、1994年のカイロ会議から始まった国連の人口政策を見ていきます。
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「フェミニズム⇒少子化」の証拠
まず、フェミニズムが本当に少子化につながるのか、検証します。
データの取り方はいろいろありますが、ここではフェミニズムの進展度合いを「男女平等指数」、少子化の進展度合いを「合計特殊出生率」として、相関を出してみました。
男女平等指数と出生率の相関
男女格差の度合いを国ごとに数値で表したものは、
- 世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数」(Gender Gap Index : GGI)
- 国連開発計画が発表する「ジェンダー不平等指数」(Gender Inequality Index:GII)
という2つが有名です。
そこで、両者の最新レポートと、2005年-2015年における各国の合計特殊出生率をくらべてみました。
まず世界経済フォーラムのGGIから↓
- GGIデータ年:2018年
- データの度数:世界149か国
- 相関係数:0.40
- p値:\(8.35 \times 10^{-7}\)
男女平等と出生率とのあいだには弱い相関がある、という結果になりました。
また国連開発計画のGIIはこれ↓
- GIIデータ年:2017年
- データの度数:世界160か国
- 相関係数:0.80
- p値:\(1.22 \times 10^{-37}\)
男女平等と出生率とのあいだには強い相関がある、という結果になりました。
フェミニズムが原因で少子化が結果
しかしこれだけでは、「男女平等が進むと出生率も下がる」ということしかわかりません。
つまり、2項目のあいだには逆比例の関係があるというだけで、因果関係があるとは断定できないのです。
ただ、フェミニズムが原因で出生率が低下するという間接的な証拠なら、あります。
それはフェミニズムの目的のひとつである「女性の高等教育」です。
このグラフは、戦後日本の合計特殊出生率・25-29歳女性未婚率・女性の大学進学率という3項目を年推移で表したものです。
見てわかるとおり、女性の大学進学率が上がるほど、未婚率が増え、そして出生率が低下しています。
また、女性の進学が未婚につながるというより直接的なデータがこちら↓
20-24歳の女性で通学している率が高い都道府県ほど、25-29歳で未婚の割合が高いことがわかります。
つまり前回の記事の最後でも書いたとおり、女性が高学歴になると未婚化・晩婚化が進み、結果として少子化につながる。
わたしたちが「おそらくそうじゃないか」と思ってることはデータの上からしても、たぶん本当なんです。
アフリカでは多くの女性が10代で結婚する一方、日本でいま16歳で結婚したら「早い」と言われますもんね。
教育だけでなく、女性の社会進出、性と出産における女性の立場向上(=避妊具の使用や、家庭内でのセックスの強要反対、家族計画を話し合うetc.)など、フェミニズムが進むと出生率が下がるだろうことは容易に想像できます。
ようするに、少子化の一番の原因がフェミニズムかどうかはわからない。
けれど、フェミニズムが少子化の間接的な原因のひとつ、であることはおそらくまちがいない。
こう結論できるのです。
そして、フェミニズムが少子化につながるなら、人口爆発の抑制策として有効だ。
こう断定して、人類の人口爆発に対処しようとする国際的なプロジェクトが、じつはすでに25年前から動き出しています。
わたしもこの連載の調べもので知りました。
それは1994年、エジプトの首都カイロで始まります。
フェミニズムで世界を救え!カイロ人口会議の衝撃
ご存知のとおり、日本は人口減少社会ですが、世界全体をみれば人口爆発が進行しています。
1800年には10億人、1900年には16億人だった世界人口は、2011年に70億人を突破。21世紀中には100億人に達すると予想されています。
この人口爆発によって、水や食糧や資源の不足、また環境破壊や経済成長のストップなどが懸念されます。
そこで国連は1967年、人口爆発問題に対応するため、「国連人口基金」を設立しました。
はじめは「家族計画」が柱だった
1974年、国連人口基金を中心にして、人口問題に関する初の政府間会議がルーマニアの首都ブカレストで開かれました。
このブカレスト会議には世界136か国の代表が参加。
各国政府が人口抑制政策にとりくむことを定めた「世界人口行動計画」という20年スパンの目標が採択されました。
この行動計画の柱のひとつが、家族計画の普及・推進でした。
家族計画とはつまり、子どもを何人持つかちゃんと計画しろよ、ポンポン生むなよというもの。ありていに言えば産児制限です。
こうして、日本では1974年から「子どもは2人まで」教育がはじまり(国立社会保障・人口問題研究所)、中国では1979年から一人っ子政策がはじまりました。
中国「絶望」家族 「一人っ子政策」は中国をどう変えたか [ メイ・フォン ]
国家が教育や賞罰によって、子どもの数を誘導する。
こうした家族計画の普及・推進は一定の効果を生み、たとえば日本では1974年から出生数があきらかに下がりました。
人口爆発の先にあるカタストロフィを避けるため、人口学者も各国政府も、すすんで家族計画の普及に努めたのです。
5年ごとに行われた「世界人口行動計画」確認のための会議でも、家族計画を推進する国は年を経るごとに増えていきました。
しかし、こんな政策は個人の幸福がおいてけぼりじゃないか。
そうした批判が、とくに女性の側からすこしずつ出はじめます。
「女性の地位向上」が新たな柱に
1987年、国連人口基金の初代事務局長ラファエル・M・サラスが心臓発作で亡くなります。
「ミスター人口問題」と呼ばれた彼の突然の死によって、新たなリーダーが必要となりました。
そこで後任に選ばれたのが、ナフィス・サディック。
彼女が2代目事務局長として、1994年の、ブカレスト会議から20年目にあたる人口会議の議長となります。
場所はエジプトの首都カイロ。
なぜかこのときに限って、アメリカはじめ各国の人口学者たちは、事前に会議の内容を知らされていませんでした。
そこで議題の中心となったのは、この20年間の検証でもなく、家族計画のさらなる推進でもなく、女性の地位向上でした。
とくにテーマとして挙げられたのが、女性の
- リプロダクティブ・ヘルス
- リプロダクティブ・ライツ
という概念です。
直訳すれば「生殖における健康」と「生殖における権利」。
前者はつまり、避妊、性感染症の防止、安全な人工妊娠中絶、女性器切除の文化の廃止、妊産婦医療、母子保健などのこと。後者はつまり、子どもを持つか持たないか・いつ持つか・何人持つかについて、女性が決める権利のことです。
こうした生殖における女性の健康・権利に加えて、さまざまな分野でジェンダー間の平等をはかる。
そうやってはじめて、人類は人口爆発を防ぐことができる。
カイロ会議で採択されたのは、以上のようなまったく新しい「行動計画」でした。
人口問題のコペルニクス的転回
カイロ会議での方針転換は、人口学者たちにとって衝撃でした。
フェミニストに人口問題をのっとられた、という点でもそうですが、何よりも、これまでのマクロな視点からミクロな視点に人口問題が移ったからです。
つまりマルサス流の「成長の限界」という視点から、フェミニズム流の「個人の幸福」という視点への移行です。
これを天動説→地動説になぞらえて「コペルニクス的転回」とよぶ学者もいます。
純粋理性批判(1) (光文社古典新訳文庫) [ イマーヌエル・カント ]
カイロ会議以降、世界の人口問題はフェミニズムを推進する方向ですすみました。
20年後の2014年にもこの方針が再確認され、2019年現在も、国連人口基金の活動はフェミニズム的方向のままです。
国連人口基金(UNFPA)は、人類が直面している最重要課題の一つである地球的規模の人口問題を、単なる数の問題ではなく人間の尊厳の問題として取り組んでいる国連機関です。
特に政策づくりと実施の両面から、家族計画や母子保健の支援、ジェンダーに基づく暴力や女性や女児に有害な慣習の撲滅を目指し、性と生殖に関する健康と権利(SRH/R)を推進しています。また国勢調査を含む人口統計データの収集・研究調査などの支援活動をしています。
これらの活動を通して、特に女性のエンパワーメント、貧困削減などの持続可能な開発目標の達成に取り組んでいます。
国連人口基金東京事務所HP「国連人口基金とは」より
UNFPA国連人口基金
つまり現代の国際政治はすでに、フェミニズムこそ人口爆発を抑える人類の福音であるとして、25年も活動しつづけているのです。
たまにTwitterで「フェミニストをアフリカに送れば人口爆発も収まる」などの投稿がありますが、それ、もうやってるわけです。
>アフリカ グレートパーク (字幕版) Amazon プライムビデオ
以上、フェミニズムが少子化につながるという間接的な証拠。
そして人類自身がすでにフェミニズムを人口抑制策として使い始めた事実。
この2点を見てきました。
おおきな視野でながめれば、フェミニズムという思想・運動はホモ・サピエンス20万年の歴史のなかで、爆発的な個体数増加の結果として生み出されたもの。あるいは個体数増加の淘汰圧・密度効果として生まれてきたもの。
こういえるのかもしれません。
次回、こうした生物学的視点をより突っ込んで考察します。
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